2015年 10月 09日
迷宮博物館 ~INTERMEDIATHEQUE~ |
ハナは怒っていた、夕べからずっと。
どうしてこうも怒れる感情が収まらないのかと自分自身を訝しく思いながらも、薄れてはまた、湧き上がる水のように強く鋭利な気持ちが生まれてくる。ほとほと疲れてきた。
一人になり、東京駅でお目当てのビルに入った。約束の時間までの数時間に心が落ちつくようにと、本でも眺めて甘いものでも食べれば少しはマシになるのでかないか、と考えたのだ。けれどこんな時、ここまで乱れてしまった時、何を見ても疲労が重なるばかりで途方に暮れてビルの2階へ上がり、ふっかりとしたエスカレーター横のソファに座ろうとした。
ソファには先客がおり、年配の二人がタブレット端末を覗いている。なかなか空きそうにない。お腹は空いていないしコーヒーも飲んだばかり。何処か…。
ショップの並ぶ廊下の角にポスターが一枚、なにやら展覧会のようで、よく見ればこのビル内のよう。なんの確信もないまま、ポスターの貼られた大きな柱の裏側に回るように歩いて行くと真っ白な空間が現れ、笑顔の女性が「どうぞご覧ください。」と言う。東京で美術館巡りをしていたハナは思わず「入場料はどこで?」と聞くと無料だと笑うのだ。
入っていった、中へ。
小さな骨、細い骨がケースに並ぶ。カエル。
ミイラの棺の向こうは魚の標本。焼き魚をキレイに食べたあとのよう。
少し笑いながら、どんどん見ながらだんだん面白くなる。
カモシカ、ダチョウ、ミンククジラ、キリン、ウマ。
大きな動物の骨はとにかく大きく太い。
生きていたら、こんな近くに寄れないけれど、骨格標本なので匂いが嗅げそうな近くまで。
窓際に、少しの羽を残したムクドリ。
その姿はいたいけで、儚くて、ためつすがめすしていたら泪がこぼれてきた。
このムクドリが鳥だったことを思い出したような気がしてきて、嫌、そんなことなどあり得ないのに木々の間を飛んでいた鳥だったころが見えてきて泣けてきた。感動とは、別物だ。
嘴を集めたもの、小さな貝、色とりどりの原石、剥製、鉱物、昆虫。
無数、を目の当たりにしたところで一旦、部屋を出た。すると先程の女性が「いかがでしたか?」と聞く。ハナは夢中で答え、質問するのだ。
「すごい!こんなの初めて観たの!鳥肌が止まらないの。これは何?ずっとあるの?前からあったの?」なんと幼稚な質問なのだろうか。
「東京大学の学術標本なんです。これほどのコレクションをまじかに見られる所はそんなにありませんよ。気に入っていただけて私も嬉しいです。上の階にもございます、ゆっくりご覧になってください。」
巨大なワニの標本に怯えながら真っ白で美しい階段を上がると、鳥の剥製がぎっしりと棚に収まり、ガラス張りの部屋の一角にライトの灯った机がある。まるで少し前まで、気難しく、なかなかお風呂に入らない教授が剥製の手入れをしていたみたいだ。もう、子供のようにガラスに顔をくっつけて見入ってしまう。
上の階も、同じく驚異の世界が広がっていた。
所々に配置された椅子に座りながら、ハナは長い時間をそこで過ごした。もう頭の中に入り切らなくて、でも、いつまでもそこにいたい気持ちだった。その空間が白日夢のようでもあり、時折、窓から外を見つめ美しい東京駅のレンガを確認した。
3階にあるミュージアムショップで、この博物館の本を買った。そして、外にでると何度か訪れたKITTEビルの景色が広がり、人々の気配が押し寄せてきた。不安になり振り返ると、博物館「INTERMEDIATHEQUE」はあったのだ。流行の雑貨や、オシャレな洋服、キレイな飲食店、贅沢な空間のKITTEの中に、あのヴンダーカンマーはあったのだ。
約束の時間まで30分少しあったので、ハナは千疋屋で大きなパフェを食べた。一人ですまして背を伸ばして椅子に座り、背の高いパフェを食べた。甘くて、甘くて、甘いだけ。でも都会の真ん中で不思議なものを一人きりで観たのだ。これくらい食べないと落ちつかない、と。
結局、家に帰って晩ご飯を作るまでハナはどうして怒っていたのか分からなかった。いや、そうじゃない、どうして怒り続けていたのかが、分からなかった。ご飯を作りだした頃になって、身体の真ん中を水が通ったように分かったのだった。
あれくらい怒っていないと「じゃ、またね。」と別れられなかったから。
どうしてこうも怒れる感情が収まらないのかと自分自身を訝しく思いながらも、薄れてはまた、湧き上がる水のように強く鋭利な気持ちが生まれてくる。ほとほと疲れてきた。
一人になり、東京駅でお目当てのビルに入った。約束の時間までの数時間に心が落ちつくようにと、本でも眺めて甘いものでも食べれば少しはマシになるのでかないか、と考えたのだ。けれどこんな時、ここまで乱れてしまった時、何を見ても疲労が重なるばかりで途方に暮れてビルの2階へ上がり、ふっかりとしたエスカレーター横のソファに座ろうとした。
ソファには先客がおり、年配の二人がタブレット端末を覗いている。なかなか空きそうにない。お腹は空いていないしコーヒーも飲んだばかり。何処か…。
ショップの並ぶ廊下の角にポスターが一枚、なにやら展覧会のようで、よく見ればこのビル内のよう。なんの確信もないまま、ポスターの貼られた大きな柱の裏側に回るように歩いて行くと真っ白な空間が現れ、笑顔の女性が「どうぞご覧ください。」と言う。東京で美術館巡りをしていたハナは思わず「入場料はどこで?」と聞くと無料だと笑うのだ。
入っていった、中へ。
小さな骨、細い骨がケースに並ぶ。カエル。
ミイラの棺の向こうは魚の標本。焼き魚をキレイに食べたあとのよう。
少し笑いながら、どんどん見ながらだんだん面白くなる。
カモシカ、ダチョウ、ミンククジラ、キリン、ウマ。
大きな動物の骨はとにかく大きく太い。
生きていたら、こんな近くに寄れないけれど、骨格標本なので匂いが嗅げそうな近くまで。
窓際に、少しの羽を残したムクドリ。
その姿はいたいけで、儚くて、ためつすがめすしていたら泪がこぼれてきた。
このムクドリが鳥だったことを思い出したような気がしてきて、嫌、そんなことなどあり得ないのに木々の間を飛んでいた鳥だったころが見えてきて泣けてきた。感動とは、別物だ。
嘴を集めたもの、小さな貝、色とりどりの原石、剥製、鉱物、昆虫。
無数、を目の当たりにしたところで一旦、部屋を出た。すると先程の女性が「いかがでしたか?」と聞く。ハナは夢中で答え、質問するのだ。
「すごい!こんなの初めて観たの!鳥肌が止まらないの。これは何?ずっとあるの?前からあったの?」なんと幼稚な質問なのだろうか。
「東京大学の学術標本なんです。これほどのコレクションをまじかに見られる所はそんなにありませんよ。気に入っていただけて私も嬉しいです。上の階にもございます、ゆっくりご覧になってください。」
巨大なワニの標本に怯えながら真っ白で美しい階段を上がると、鳥の剥製がぎっしりと棚に収まり、ガラス張りの部屋の一角にライトの灯った机がある。まるで少し前まで、気難しく、なかなかお風呂に入らない教授が剥製の手入れをしていたみたいだ。もう、子供のようにガラスに顔をくっつけて見入ってしまう。
上の階も、同じく驚異の世界が広がっていた。
所々に配置された椅子に座りながら、ハナは長い時間をそこで過ごした。もう頭の中に入り切らなくて、でも、いつまでもそこにいたい気持ちだった。その空間が白日夢のようでもあり、時折、窓から外を見つめ美しい東京駅のレンガを確認した。
3階にあるミュージアムショップで、この博物館の本を買った。そして、外にでると何度か訪れたKITTEビルの景色が広がり、人々の気配が押し寄せてきた。不安になり振り返ると、博物館「INTERMEDIATHEQUE」はあったのだ。流行の雑貨や、オシャレな洋服、キレイな飲食店、贅沢な空間のKITTEの中に、あのヴンダーカンマーはあったのだ。
約束の時間まで30分少しあったので、ハナは千疋屋で大きなパフェを食べた。一人ですまして背を伸ばして椅子に座り、背の高いパフェを食べた。甘くて、甘くて、甘いだけ。でも都会の真ん中で不思議なものを一人きりで観たのだ。これくらい食べないと落ちつかない、と。
結局、家に帰って晩ご飯を作るまでハナはどうして怒っていたのか分からなかった。いや、そうじゃない、どうして怒り続けていたのかが、分からなかった。ご飯を作りだした頃になって、身体の真ん中を水が通ったように分かったのだった。
あれくらい怒っていないと「じゃ、またね。」と別れられなかったから。
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by hanaleibay
| 2015-10-09 21:21
| 今日の出来事